■腐食液は塩化第二鉄を使用。
■有害物質を含む溶剤(ベンジン、リグロイン、灯油、ホワイトガソリンなど)は使用しません。
現在、当スタジオでは、アクリルベースの水性グランドや植物バイオの溶剤の使用に切り替えたため、ベンジン、リグロイン等の石油系溶剤は不必要です。
また、水溶性絵の具などを使ったソフトグランドの技法もあります。
ベンゼンはベンジン、灯油、ガソリン等の石油系溶剤に含まれる物質で、人体に於いて発ガン性が確認されています。(参考資料:http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Aug1999/990817.html / http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/April1999/990429.html)
染み抜き用や試薬のベンジン・リグロインの現市販品ではベンゼンフリー(ベンゼンによる毒性の影響がほとんどないと考えられるごく微量の含有量-1%以下)の商品や、芳香族系を低く押さえる努力がされているものもあるようですが、主成分の n-ヘキサンも有害物質です。使用される溶剤の成分と含有量については、注意して、その含有物質の毒性について認識を持っておくことが健康被害から守るために必要だと思います。
止むを得ずベンジン等を使用するときは、換気をよくして、吸入や皮膚接触はできるだけ避けなければなりません。
ベンジン等を使用して銅版の汚れを除去するときは、蒸気に目を侵されないように溶剤を流した版に顔を近付けないことや、指についたインクをベンジン等で拭き取ることは止めなければなりません。
■印刷後の銅版は、サラダ油や植物バイオの溶剤-D*SOLVインククリーナーでインクを拭き取りその後、食器用洗剤(石鹸)で水洗。
■インクのついたローラー、ゴムべら、インク練り台などの掃除にもサラダ油を使用。その後アルコールで拭く。または、食器用洗剤(石鹸)で水洗。手についたインクもサラダ油で拭くとある程度取れます。その後石鹸などで水洗。
■ピカール(金属磨き)で銅版を磨いた後の汚れも、サラダ油またはD*SOLVインククリーナーで拭き取りその後、食器用洗剤(石鹸)で水洗。
■ハードグランドはベンジン、リグロインなどの不必要なアクリルベースの水性グランド Z*Acryl を使用。
■従来のアスファルトを原料にしたグランドの除去や裏止めニスも、植物バイオの溶剤-D*SOLVインククリーナーで除去できます。その後、水洗。
《 版画制作の環境に於いて、欧米の版画スタジオや大学では、日本以上に健康と環境問題に関心が高まっています。そして、水性グランドや、また、インク除去用には植物性洗剤が多く使われるようになっています。》
■北山銅版画室/Studio Kitayamaでは、Z*Acryl ハードグランド(アクリルベースの水性グランド)、100%植物バイオの溶剤などを販売しています。
■ピカール(金属磨き)は液体のものより半練りタイプの方が臭いが穏やかです。
■有機溶剤のついたウエスは、有害ガスの蒸発を防ぐため缶に入れて密閉します。
■室内の空気を清浄に保つため換気します。
--- このような取り組みにより、より安全に安心して作業を進められるように工夫していきたいと思っています。---
以下の文章は参考資料としてwebサイト「住まいの科学情報センター」内の
(http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/Aug1999/990817.html)
Author:東 賢一 混合溶剤曝露による慢性脳障害 1999年8月17日 CSN #089 ”から一部抜粋、引用したものです。
有機溶剤は揮発性が高い物質が多く、眼・皮膚・気道への刺激や、中枢神経系への影響があるため、直接皮膚に接触したり、蒸気を吸い込んだりすることは、できるだけ避けなければなりません。
米医師会雑誌(JAMA)で発表された有機溶剤に関する最近の研究において、有機溶剤への妊娠期間中の曝露とその後の影響が報告されています[3]。この論文では、妊娠初期13週の間に有機溶剤に曝露した、工場作業者、実験補助、アーティスト、グラフィックデザイナー、印刷産業労働者、化学者、画家、OL、獣医、葬儀場労働者、大工、社会福祉家、カー清掃業の労働者125人を分析した結果、胎児の奇形などの先天性異常のリスクが13倍増加すると報告しています。また、妊娠期間中の女性の有機溶剤への曝露は、できるだけ最小限にすべきだと指摘しています。 その他にもリウマチ性関節炎、狼瘡症、鞏皮症などの結合組織疾患や癌との関連性について、レイチェル・ニュース#647で紹介されています[4]。 今年5月に発表された、アメリカ政府が発行する科学雑誌「環境衛生展望」において、30年間種々の有機溶剤に曝露した57歳のペンキ塗布作業者に発生した慢性脳障害について、ボストン医科大学のRobert G. Feldmanらが報告しました[5]。 この作業者は、ペンキ屋として16歳から30年間仕事を続けていました。その間、換気状態が良くない場所でもよく仕事を行っていました。また仕事が終わった時に、有機溶剤を使って腕や手に付着したペンキを取り除いていました。そして、その作業者と彼の家族は短期記憶機能が低下しているや、40歳代前半での情動が変化していることに気づきました。またその症状は、仕事を辞め、塗料や溶剤に曝露しないようになった後でも進行しました。 そこで、継続的に神経心理学のテストを行った結果、生涯治療不可能な認識力不足であることがわかり、さらに磁気共鳴診断装置 (MRI)によって、脳の白化現象を伴った容積減少が確認されました。そしてこの患者は、アルツハイマー病、多発性脈管梗塞痴呆症、アルコール性痴呆症のような痴呆症ではなく、慢性的な毒性脳障害と診断されました。有機溶剤が中枢神経系に影響することはこれまでにも報告されており、今回の研究もそれを裏付ける結果が得られました。 家庭や職場で有機溶剤を大量に使用する場合は、曝露をできるだけ最小限に抑えるためにも、換気に注意を払い、保護具を着用すべきです。国際化学物質安全性カード(ICSC)に化学物質ごとに取り扱い上の注意事項や応急処置方法が記載されています[2]。取り扱い上の注意事項について、私の知見と経験を含めて以下に示しますのでご参照下さい。
<有機溶剤取り扱い時の注意事項>
・大量に有機溶剤を取り扱う場合は、ドラフト内あるいは局所排気ブース内で行う。あるいは風通しが良く換気の良い場所で行う。
・保護メガネ(一般の眼鏡でも構いませんが、ゴーグルのように蒸気が入らないシールドタイプがベスト)を着用する
・保護手袋(有機溶剤に溶けないポリエチレン製の手袋)を着用する
・保護衣(作業用の衣服など)を着用する
・有機溶剤用の防毒マスクを着用する
・作業中は飲食や喫煙をしない。またライターなどの火気は使用しない。静電気の発生に気を付ける。
有機溶剤は身近に使用する化学物質です。健康への影響などの危険性をしっかり認識し、取り扱いに注意して使用することが大切です。
<参考文献>
[1] 「誤飲物質の毒性検索システム」外来小児科学ネットワーク
http://city.hokkai.or.jp/~satoshi/TOX/tox.html
[2] 国際化学物質安全性カード(ICSC)日本語版、国立医薬品食品衛生研究所 (NIHS)、化学物質情報部
http://www.nihs.go.jp/ICSC/
[3] Sohail Khattak and others, "Pregnancy Outcome Following Gestational Exposure to Organic Solvents,"
米医師会雑誌: Journal of American Medical Association (JAMA), Vol. 281, No. 12 (March 24/311999), pgs.1106-1109.
http://jama.ama-assn.org/issues/v281n12/full/joc81429.html
[4] RACHEL'S ENVIRONMENT & HEALTH WEEKLY #647, April 22, 1999.
日本語の概要文は、「住まいにおける化学物質」のCSN #042で紹介しています。
(http://www.kcn.ne.jp/~azuma/news/April1999/990429.html)
[5] Robert G. Feldman, Robert G. Feldman, Thomas Ptak
環境衛生展望(Environmental Health Perspectives)Volume 107, Number 5, May 1999
URL: http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/1999/107p417-422feldman/abstract.html
●他の海外を中心とした化学物質に関わる健康と環境情報 については、 「住まいの科学情報センター」(http://www.kcn.ne.jp/~azuma/index.html)のChemical Safety Newsデータベースへどうぞ。
- Non Toxic Printmaking - への移行 [海外の研究]
■ 毒性の凹版画制作とその伝統 ■
*この文章はキースハワード氏の著述 KEITH HOWARD'S NON-TOXIC PRINTMAKING PAGE(1996年~1997年)から抜粋し翻訳しました。訳・土居誠
版画芸術は歴史的に数世紀に溯って、芸術教育に一般的に受けいられて広く実施されて来た状況があります。労働衛生、安全、及び環境についての概念が考えられる何百年も前にほとんどの伝統的な版画制作技術が見い出されました。その結果、生態の保護、健康、及び安全に関係する問題と伝統的な版画制作の習慣とは全く相容れないものでした。危険な薬品と溶剤が版画制作に使用されている状態で、主に労働衛生と法律上の安全基準に照らし合わせて、教育機関はすべての美術学生と教職員にその方法の再評価を促しました。
1978年に刊行された「版画制作における健康と安全:版画家のためのマニュアル」("Health and Safety in Printmaking: A Manual for Printmakers", published in Canada by the Alberta Labour, Occupational Health and Safety Division in Edmonton)によれば、伝統的な版画制作の従事者が扱うメディアには一般的に112種類の毒性と有害な物質があります。これらの有害な化学物質と溶剤のいくつかは以下の通りです。硝酸、塩酸、硫酸、フッ化水素酸、クロム酸、トルエン、ベンゼン、テレピン油、ラッカーシンナー、メチル、セロソルブアセテート、キシレン、および芳香族炭化水素溶剤。それらの多くが発癌物質であるこれらの化学物質への暴露からの、職業的な知られている副作用のいくつかがあります。流産、中枢神経系障害、塵肺、喘息、肺気腫、壊疽性やけど、また、神経麻痺、皮膚発疹、皮膚炎、及び粘液膜と気道へのダメージ及び肺、肝臓、腎臓、心臓に影響する組織的な中毒。ほとんどの伝統的な版画制作スタジオが、健康被害に関連したこれらの製品の多くを同時に使用するので、これらの結合した毒性(有害性)はさらに未知数です。結局、私たちがすべての人に尋ねるべき一つの質問があります。過去の毒性を持つ伝統は正に滅ぶべきものに値しませんか?
□私たちは伝統的な版画制作から有毒化学物質と酸にどう対処したか
責任のある研究(教育)施設は、排気装置により教室や美術工房から危険な空気中の化学物質を排気させることによって、液体と空気中の毒素の問題に対処しました。無責任な研究(教育)施設は、伝統的な版画制作メディアに関連して、伝統が要求したように盲目的に潜在的に悲惨な生態的、そして、職業的な健康と安全を引き続き無視しました。毒物学的な結果に対処するための最終的な一般的手段は美術カリキュラムから版画制作を根絶することでした。毎月、私は労働衛生と安全に関連するなかで版画制作授業の廃止について聞きます。これらのことにも関わらず、幾人かの版画家は隠れるように日々危険な方法で仕事をして、自分自身の健康、および彼らの学生の健康を危険にさらしています。
わずかな研究(教育)施設しか、法律の安全基準に従って教室や美術工房に何千ドルもの費用のかかる高価な排気システムを持つ余裕がありません。政府の指導基準に従って、この法外な出費で、教室は取り扱う有害化学物質にはより安全になります。しかし、内部(室内)の空気や液体の毒素は直接、外部環境にどっさり排出されます。たいていの場合すべての有害で毒性の汚染物質が、水道や地域の埋立区域にどっさり排出されるか、または少しも濾過なしで直接自然環境に排出されます。避けられない事実として、環境への影響と責任の問題はこれらの健康と安全対策によっては完全に解決されるというわけではありません。
さらに、もし研究(教育)施設が、教室と美術工房を毒性のある伝統的な版画技法を教えるために、より安全にするための何千ドルを費やすことを選択すれば、これは結局、問題の冗長を引き起こすかもしれません。これらの非常に制御された条件のもとでの伝統的な毒性のある版画制作技術で導かれた学生が学校の施設外で安全にこの芸術ジャンルを追求することは出来ません。その上、毒性の版画制作の習慣は私たちの社会を流れている一般的な生態(エコロジー)の認識から逃れることができません。従事者(版画制作に携わる者)の疎外とこれらの毒性の伝統の有用性における衰退は目に見えて明らかです。
ーーーー 一部省略(エッチングの制作行程の簡単な説明)ーーーー
□毒性とエッチャーの芸術の伝統
経験豊富なエッチャーが最初にこの芸術形式をいつ探り始めたかはわかりませんが、費やされた時間の積み重ねに比例して、伝統的なインタリオ(凹版画)メディアには親しみと気楽さが生まれます。しかし、初心者の版画制作の学生が伝統的な版画スタジオで危険にさらされて当惑しているような伝統的な方法は、理解するのは困難です。初心者は毒性の蒸気(有毒性ガス)を防ぐために防護服を絶望的に身に付けた版画家の制作室で歓迎されるかもしれません。または、それらのことにどんな注意も払わない版画家の短命な最後の姿を目撃するかもしれません。これらの潜在的版画家の嗅覚が多くの有毒性ガスによって攻撃される場合、彼らは版画制作スタジオに入るのをためらうべきです。版画制作を追求することを選ぶという決断は、彼らの好奇心をそれらの健康と安全性さらに環境への意識に結びつけることが肝要かもしれません。毒性問題を考えた後にでも、多くの独善的な版画家たちは彼らの伝統的なエッチングを追求するがために、健康に対して少しの価値も見い出さないかもしれません。このことは、版画制作の潜在的成長を妨げて、実に確かに、世界中の芸術教育の機関で、版画制作課程の終焉につながりました。現在、健康や安全性に非常に厳しい法律をもつイギリスなど、いくつかの国では、二つの選択だけを版画制作の教師に求めます。版画制作部門を閉鎖するか、非毒性の方法論へ移行するか、のいずれかです。非毒性の版画制作方法論が例外よりむしろ標準になる前に、啓発過程にあるか、または、健康と安全の法律が制定されるかは、ただ時間の問題であります。
□教師としての版画家達
歴代の版画家たちは、版画制作の錬金術的な伝統の中で主導権を取って来ました。その儀式が何百年もの習慣から受け継がれている状態で。制作において、伝統的なエッチングに使われた有害化学物質のもとで健康と安全の重要性を無頓着に無視する版画家の不幸な伝統があります。
芸術家と学生は、およそ7つの一般的な技法に限って伝統的なエッチングに取り入れました。その結果、従来の版画制作が完全であり、新しい技術的な貢献が不要であり、保証もないとさえ信じている何千人もの版画制作の教師がいます。変化するには大きな勇気を要します。何年間も伝統的な方法でその素晴らしさの追求に費やして来た熟練した版画家たち、彼らは、自らが選んだ芸術形式の専門家ではもはやいられないかもしれないと、受け入れを拒絶するかもしれません。残念ながら、新しい自分たちの現在の方法論を公正に再評価することが出来る前に、彼らは時間とエネルギーをこれらの非毒性の版画制作の代替手段を学ぶことに費やさなければなりません。真の専門家なら、彼らの専門的技術の分野を新しい開発について行くためにそれを自らの仕事にします。他のほとんどのスタッフ(弟子たち)がそれらの専門家たちからこのことを要求します。
一つの方法に満足している伝統主義者には、これらの変化に遅れをとらないように独学するよりむしろ口実をでっち上げ、革新を無視することは容易いことです。驚いたことにいく人かの版画家たちが異なった方法論の単なる提案で敵対的になりさえして、それらの分野での革新を無視するように彼らの学生に命じます。これらの版画家たちは、知識のないことに恐れています。ロバート・F ケネディーが正に簡潔に述べたように、「進歩は素晴らしい言葉です。しかし、変化は動機付けです。そして、変化は敵を作ります。」
素晴らしい皮肉は、彼らがこれらの恐れに打ち勝って、時間をこれらの非毒性の版画制作の代替手段を探るのに費やすことが出来るなら、専門家として、そして、個人としてもより良いことです。非毒性の方法論に切り替わるのを選ぶ版画家が彼らの健康と幸福を増すだけではなく、また、彼らの創造的なイメージを生み出す可能性を増幅させるでしょう。非毒性の方法論に切り替わるのは、より少ない時間と安いコストで技術的に優れたプリントをすることができます。本当に、全く変化させない理由を探すのは難しいです。事実、版画家がいったんこの変化を起こすと、彼らはもう以前の毒性のある方法には決して戻りません。大部分の人は版画制作への再生と高い関心を示します。教育の専門家のためには、それは現代に追いついて、教育への彼らの関心を復興させる理想的な機会を提示します。
□制作のより良い、そして安全な方法がある
私の非毒性版画制作の公言は、私がもはや環境を汚染して、不必要に私の学生とスタッフの健康を危険にさらすことをしないというメッセージです。BETTER AND SAFER WAYS OF WORKING(制作のより良い、安全な方法)は技術的な品質を少しも損ないません。これらの新しい非毒性の版画制作のテクニックは、毒性のあるテクニックより技術的にも、コスト面でも優れています。それらは、版画制作の可能性を100倍にする創造的なイメージを広げました。版画制作は、非毒性の版画制作の代替手段の急増で、ルネッサンスが起こっています。版画制作は、奨励する関係者の好意的な態度 ー 探究、発見、共有、親しみやすさ ー を反映して発展しています。
□生まれ変わるインタリオ(凹版画)
私たちはバイタリティーにあふれた創造的な力で芸術と教育の世界で凹版画の再生を経験しています。版画家は初めて、毒性の伝統的なインタリオの技法に対して実行できる代案を持ちました。私たちは創造的な研究のニューエイジの発端に立っています。版画家になる絶好の時期です! 版画家と美術教育者は、凹版画制作に関わるこの新しい非毒性の多彩な技法と適切な費用を知って、この方法から生まれる興味はつきないでしょう。凹版画の創造的な表現力は大規模に変化をしています。より素晴らしい技術的な自由さと創造的な探究の精神を具体化しているここに概説されたテクニックは、新しい哲学を表します。これらのテクニックはいくつかの初歩的なことと、他の生まれ変わるようなことを説明しています。凹版画に、この新しい、より安全な方法で、彼らの個々の表現の要求に応えるために革新的にこれらのテクニックを採用する版画家はパイオニアです。彼らは芸術家の真の創造的で知的な精神を具体化します。
~海外の報告から~
[以下の文章は、webサイト「住まいの科学情報センター」(http://www.kcn.ne.jp/~azuma/)の東 賢一氏の著述(1999年)を引用しています。]
◆アメリカ政府が発行する科学雑誌「環境衛生展望」において、30年間種々の有機溶剤に曝露した57歳のペンキ塗布作業者に発生した慢性脳障害について、ボストン医科大学のRobert G. Feldmanらの報告があります。
[Robert G. Feldman, Robert G. Feldman, Thomas Ptak 環境衛生展望(Environmental Health Perspectives)Volume 107, Number 5, May 1999
URL: http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/1999/107p417-422feldman/abstract.html]
◆1999年4月22日のレイチェル・ウィークリーの概要。
["Environmental Research Foundation" 「RACHEL'S ENVIRONMENT & HEALTH WEEKLY #647, April 22, 1999.」]
4つの章から構成されています。
1. 「有機溶剤(-汎用の毒薬-)についての概説」 2. 「出生障害」 3. 「結合組織疾患」 4. 「癌」
◇第1章では、私達の家庭や職場などの身の回りにある有機溶剤と、それらを用いた製品事例及び健康影響について紹介しています。
<健康影響例> ・出生障害 ・免疫組織異常(リウマチ、関節炎、強皮症、狼そう紅斑症) ・乳癌などの種々の癌
◇第2章「出生障害」では、職場で有機溶剤に曝露した女性に関わる健康障害事例について、研究論文を紹介しながら概説しています。
特に医療関連の職業、衣類や織物産業、グラフィックアートは有機溶剤に曝露しやすい職業です。健康障害事例としては、有機溶剤への妊娠期間中の曝露とその後の影響が報告されています(米国医学協会雑誌(JAMA) [1] )。
この論文では、妊娠初期13週の間に有機溶剤に曝露した、工場作業者、実験補助、アーティスト、グラフィックデザイナー、印刷産業労働者、化学者、画家、OL、獣医、葬儀場労働者、大工、社会福祉家、カー清掃業の労働者125人を分析した結果、胎児の奇形などの先天性異常のリスクが13倍増加すると報告しています。
その障害例は、心臓弁の障害、喉頭軟骨の軟化、異常に小さいペニス、難聴、内反足、神経管障害(索状脊椎組織に関係)ハイドロネフローゼ(腎臓障害)。
そして、妊娠期間中の女性や授乳時期の女性の有機溶剤への曝露は、できるだけ最小限にすべきだと指摘しています。
◇第3章の「結合組織疾患」と第4章の「癌」では、有機溶剤が結合組織疾患に与える影響と癌との関連性について、関連論文紹介しながら述べています。
「結合組織疾患」 リウマチ性関節炎、狼そう症、強皮症などの結合組織疾患。(このような症状は男性よりも女性に多いと本文で述べています)。リウマチ性疾患の原因はよくわかっていないが、有機溶剤が原因の1つであることが研究論文からも示唆されます。
「癌」 特に石油化学産業において不可欠である有機溶剤として用いられるベンゼン、トルエン、キシレン、スチレンと癌との関連性について述べています。これらの溶剤は混合物として用いられることが多い。
・ベンゼン : 人体への発癌性が明確になっており、職場で曝露すると白血病が発症する可能性が高くなります。
・スチレン : 動物実験での結果から人体に対しての発癌性が示唆されています。
―「15種類の癌をもつ3730人の患者の体験調査(1998年、カナダ、[2] )」―
<要点> 1. キシレン:結腸癌 2. ベンゼン、トルエン、スチレン:直腸癌 3. スチレン:前立腺癌
上記3つの関係について限定的ではあるが確証が得られています。
―「女性の乳癌と有機溶剤曝露との関連についての1つの仮定 [3] 」―
<要点>
この論文では動物実験研究より、有機溶剤が乳癌発生の原因となる確証があると述べています。また、工業国における女性の乳癌患者の母乳中には、脂肪組織に溶解する有機溶剤が多数含まれていると報告しています。これらの溶剤は女性の血液よりも母乳中のほうが高濃度であると述べています。またエストロゲン作用(内分泌かく乱作用)を示す物質もこの中にはあります。この研究から、母乳を通じて乳児の体内に有機溶剤が容易に進入するということです。産業の発展とともに有機溶剤の使用量が増加し、有機溶剤を摂取するルートは職業上以外に一般家庭でも多数考えられます。
ここで検出された有機溶剤は塩素系化合物、芳香族系化合物が非常に多いということも認識する必要があると思います。
<有機溶剤の例>
・脂肪族炭化水素(ミネラルスピリット、ニス、灯油)・芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)
・塩素化炭化水素(四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン)
・脂肪族アルコール(メタノール)・グリコール類(エチレングリコール)
私たちの身の回りには延べ数百種類もの有機溶剤があり、それらへの曝露は単一というのはまれなことで、一般的には混合物に曝露しています。またその多くは揮発性が高く、室内空気汚染で問題になっている揮発性有機化合物(VOC)に含まれます。室内空気汚染問題においても揮発性有機化合物の特定が研究されており、今後徐々に解明されると思われます。人体への影響については、混合物の曝露と単一物の曝露の双方から研究する必要があります。
<参考文献>[1] Sohail Khattak and others, "Pregnancy Outcome Following Gestational Exposure to Organic Solvents,"
米国医学協会雑誌: Journal of American Medical Association (JAMA), Vol. 281, No. 12 (March 24/311999), pgs.1106-1109.
http://jama.ama-assn.org/issues/v281n12/full/joc81429.html
[2] Michel Gerin and others, "Associations Between Several Sites of Cancer and Occupational Exposure to Benzene,
Toluene, Xylene, and Styrene: Results of a Case-Control Study in Montreal," AMERICAN JOURNAL OF INDUSTRIAL
MEDICINE Vol. 34 (1998), pgs.144-156.
[3] France P. Labreche and Mark S. Goldberg, "Exposure to Organic Solvents and Breast Cancer in Women: A Hypothesis"
AMERICAN JOURNAL OF INDUSTRIAL MEDICINE Vol. 32 (1997), pgs.1-14.
「工業ガソリン」
工業ガソリンはJIS規格により、1号(ベンジン)、2号(ゴム揮発油)、3号(大豆揮発油)、4号(ミネラルスピリット) および5号(クリーニングソルベント)の5種類に分類されている。
◎ベンジンは白ガソリンとも呼ばれ、機械部品の洗浄用などに使用される。用途上毒性の高い芳香族分は低く抑えられている。
◎ゴム揮発油はゴム溶解用で、沸点はベンジンよりやや高く、80~160℃で溶解力向上のため芳香族分が多くなるが、 毒性を避けるため溶解カのあるシクロパラフィン(ナフテン)分を主成分とするナフテニックゴム揮と呼ばれるものもある。
◎大豆揮発油は大豆油などの抽出用。
◎ミネラルスピリットは塗料用で、組成として芳香族分の多いものと少ないものがあり、High Aromatic White Spiritの頭文字をとってHAWS級ソルベント、 もう片方をLow Aromatic White Spirit、LAWS級とも呼ばれている。
◎クリー二ングソルベントはその名の通り、ドライクリーニング用のもの。
「石油系溶剤(試薬)」
JIS規格では石油系溶剤(試薬)として、石油エーテル、石油べンジン および リグロインの3種類が規定されている。
◎石油エーテルは、3種類のうち最も軽質であり、分析試薬用あるいは洗浄用に幅広く使用されている。試薬にエーテルの名前がついているが、 エーテル基のある化合物は一切含まれていない。
◎石油ベンジンは、しみぬき用,洗浄用、塗料用に使用され、主成分はノルマルヘキサンおよびイソヘキサン(メチルペンタン)である。 昔にはベンゼン含有のものも市販されていたが、現市販品はベンゼン・フリーである。
◎リグロインは、工業ガソリンのゴム揮発油に似ている。 白金カイロ用燃料としても適している。 トルエンを若干含むので毒性に注意が必要。
「工業用石油系溶剤」
JIS規格はない。 石油化学工場で使用されているポリオレフィン重合溶剤、塗料業界で使用されている芳香族溶剤および印刷インキ溶剤がある。
●有機溶剤の例
◎脂肪族炭化水素類(石油系炭化水素類)- ミネラルスピリット、ニス、灯油
n-へキサン、n-へプタンが主成分のミネラルスピリット等がある。インキ用溶剤として広く使われている。
◎芳香族炭化水素類 - ベンゼン 、トルエン、キシレン
脂肪族よりも溶解力が大きい。特にトルエンは、グラビアインキ用の溶剤として多く使用されている。
◎アルコール系 - メチルアルコール、エチルアルコール、IPA、ブチルアルコール等
印刷インキ用には、IPAが最も大量に使われている。
◎エステル系酢酸 - エチル、酢酸ブチル
酢酸エチルが、多くの樹脂を溶解するためグラビアインキ、フレキソインキに他の溶剤と併用して使われる。酢酸ブチルは、スクリーンインキに用いられる。
◎ケトン系 - メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン(アノン)
ケトンは溶解力が大きく、メチルエチルケトン(MEK)はグラビアインキに、シクロヘキサノン(アノン)はスクリーン用に使われる。
◎グリコール及びその誘導体 - エチレングリコール(セロソルブ)
エチレングリコールモノエチル(セロソルブ)が、グラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ等に使用されている。
◎塩素化炭化水素類 - 四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン
クリーニングソルベント等にに含まれる成分。
情報源:東京都環境局 http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/
石油学会 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jpi/top.html
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1990年代からアメリカ、カナダ(Mark Zaffron , Keith Howard)とヨーロッパ(エジンバラの版画工房やHenrik Boegh -デンマーク)などの芸術家(版画家、写真家)、大学教員によって研究され開発されています。
それは、化学物質の毒性が健康被害と環境汚染をもたらすことが医学と化学の検証の上、明確になってきた時代の推移と符合し、有害化学物質の取り扱いに対する厳しい法律の施行された国では版画クラスの閉鎖かノントクシックへの移行かのどちらかしか選択の余地がありません。
このような法規制の無い国においても、現在は個人レベルでも健康や環境問題の意識が高く最初からノントクシック技法だけを教える美術学校が増えています。
北山銅版画室は、健康な凹版画制作の環境を目指して伝統的な銅版画材料からの移行について研究しています。
その一環として、海外の研究を紹介すると共に、開発された製品の輸入、販売をしています。
京都市にあるスタジオは銅版画の1日体験教室と、初心者コースから経験者、専門家まで作品制作できる "Safer Intaglio Studio" です。